東京高等裁判所 平成7年(行ケ)249号 判決 1998年2月26日
大阪府大阪市中央区船越町1丁目4番7号
原告
島田商事株式会社
同代表者代表取締役
島田尭行
同訴訟代理人弁理士
小谷悦司
広島県芦品郡新市町大字戸手2382番地の6
被告
株式会社ミツボシコーポレーション
同代表者代表取締役
道前伸洋
同訴訟代理人弁護士
品川澄雄
同
滝澤功治
同
弁理士 宮本泰一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が昭和59年審判第6988号事件について平成7年8月24日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、発明の名称を「芯地」とする特許第1099905号発明(昭和51年12月28日出願、昭和55年10月13日出願公告、昭和57年年6月18日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は、昭和59年4月5日、本件特許の第1発明(特許請求の範囲第1項並びにこの実施態様項である第2及び第3項(訂正前の明細書では第2ないし第4項)に記載されたもの)を無効とすることについて審判を請求をしたところ、特許庁は、この請求を同年審判第6988号事件として審理し、平成3年4月25日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたが、東京高等裁判所は、平成5年11月30日、上記審決を取り消す旨の判決(平成3年(行ケ)第159号)をし、同判決は確定した。
その後、被告は、本件特許に関する訂正審判の請求(平成6年審判第12326号)をし、平成6年11月4日訂正を認容する審決がされたが、特許庁は、平成7年8月24日、差戻後の無効審判事件について、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月21日原告に送達された。
2 特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下「本件発明という。)の要旨
所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成してなる弾撥性の強い可撓性合繊モノフイラメント糸(1)と、該糸層の一面においてウエール方向に配置され、各ウエールより1ウエール飛び以上離れたウエールとの間においてジグザグ状に横に振り、各ウエール間に振り糸の重合により重複部分(2)’を形成してなる任意の合繊フィラメント糸(2)と、前記モノフイラメント糸(1)層に対し前記糸(2)層と同一面又は他面の少なくとも一面において縦方向に挿入してなる適宜数のフィラメント糸(3)と、前記各糸(1)、(2)、(3)を各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなるステッチ糸(4)とからなり、前記縦方向に配列挿入されたフイラメント糸(3)は熱収縮を異にするフイラメント糸により構成され、巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されていることを特徴とする芯地。
3 審決の理由
審決の理由は、別紙審決書写し(以下「審決書」という。)のとおりである。ただし、14頁15行ないし17行の「「緯糸」、「力糸」および「部分緯糸」はそれぞれ本件発明において(1)、(2)および(3)で表される糸に相当し、」は、「「全幅緯糸」、「部分緯糸」および「力糸」はそれぞれ本件発明において(1)、(2)および(3)で表される糸に相当し、」の誤記であり、23頁9行、12、13行、及び18行の甲第15号証は、いずれも甲第18号証の誤記である。
4 審決の認否
(1) 審決書2頁2行ないし3頁14行(本件発明の要旨等)は認める。
(2) 同3頁15行ないし5頁11行(請求人の主張)は認める。
(3) 同5頁12行ないし8頁5行(請求人の提出した証拠)は認める。
(4)<1> 同8頁7行、8行((1)の理由についての判断)は認める。
<2> 同8頁9行ないし11頁17行((2)の理由についての判断)は認める。
<3> (3)の理由についての判断うち、
11頁19行ないし14頁1行(請求人の主張)は認める。
14頁2行ないし16頁14行(一致点、相違点の認定)は認める。
16頁15行ないし19頁8行(相違点<1>ないし<3>についての判断)は認める。
19頁9行ないし21頁6行(相違点<4>についての判断)のうち、20頁4行「第1図」から6行まで、20頁16行「編組織」から17行まで、21頁2行から6行までは争い、その余は認める。
21頁7行ないし25頁4行(相違点<5>についての判断)のうち、23頁17行ないし25頁4行は争い、その余は認める。
25頁5行ないし26頁6行(効果についての判断等)は争う。
(5) 26頁7行ないし9行(まとめ)は争う。
5 審決を取り消すべき事由
審決は、相違点<4>についての判断及び相違点<5>についての判断を誤ったため進歩性の判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。
(1) 相違点<4>についての判断の誤り
審決は、「甲第15号証ないし甲第18号証に開示された事項からは、化学繊維モノフイラメント糸を編み巾一杯に往復編成した編み組織であって、その余の糸にマルチフイラメント糸を使用することが当業者の常識であるとすることはできない」(審決書21頁2行ないし6行)と判断するが、誤りである。
<1> 審決が、甲第16号証につき、「横糸としてモノフィラメント糸を用いることは開示されているが、編組織について何ら示唆するところはない。」(審決書20頁15行ないし17行)とのみ認定しているが、芯地の糸づかいに関する甲第16号証の記載内容を看過している。
すなわち、甲第16号証には、緯糸としてモノフイラメントを用いることにより、腰の強さ(保形性)を高めることが開示されているだけでなく、経糸として「ウーリーナイロン糸の伸縮性のかさ高加工糸、又はスパンデックス等の弾性繊維を用いる」旨記載されているが、「ウーリーナイロン糸の伸縮性かさ高加工糸」とは、合繊フイラメント糸の一種である。
そうすると、甲第16号証には、編物と織物の相違はあるものの、糸づかいとして本件発明の芯地と同種の芯地が開示されているものである。
<2> 審決は、「請求人は、「尚、横糸の化学糸はモノフイラメントであり、縦糸及びくさり糸がマルチフイラメントであることは(甲第17号証の)第1図、及び第2図から当業者なら充分読み取りうる)」と主張しているが、第1図および第2図の記載を見ても上記の請求人の主張を認めることはできない」(審決書19頁末行ないし20頁6行)と認定するが、誤りである。
甲第17号証には、「(1)は例えば塩化ビニリデンやポリエステルのような材質の化学糸から成る縦糸、(2)は例えばナイロンのような材質の化学糸から成る横糸で、適当巾をもって連続して左右に往復して編成する。(3)は左右の曲折時にできる耳部で、本考案はこの耳部を形成したことが特徴である。」(2頁2行ないし7行)との記載があり、第1図及び第2図に、横糸(2)及び縦糸(1)が比較的太いフイラメント状の糸状体として描かれており、特に横糸(2)の往復編成によって形成される左右両端耳部は円弧状に曲折して描かれており、マルチフイラメントや、ステーブルファイバーではこのような円弧状に曲折した耳部とはならないことから、当業者ならば、横糸はモノフイラメントであり、しかもナイロンのような材質といっているところからみて弾撥性の強いナイロンモノフイラメント糸であることは当然読み取ることができる。
甲第30ないし第34号証に示すとおり、芯地として緯糸に合繊モノフイラメントを、経糸及び鎖糸として合繊フイラメントを用いる糸づかいは、周知であって、この周知技術を前提として甲第17号証の全文を読むとき、上記の点は、当業者にとってより明らかである。
<3> したがって、審決の相違点<4>についての判断は誤りである。
(2) 相違点<5>についての判断の誤り
審決は、「甲第18号証に開示された技術的事項によっても、甲第14号証に記載された編組織を芯地に適用する際に、その縦方向に配列挿入される糸(力糸)を・・・「熱収縮を異にするフイラメント糸により構成され」、しかも「巾方向一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されている」という構成にすることは当業者が容易になし得たことということはできない。」(審決書24頁15行ないし25頁4行)と判断するが、誤りである。
<1>(a) 審決は、本件発明と甲第18号証に記載されたものとの相違点として前者が経編地で後者が織物である点を挙げ(審決書23頁9行ないし11行)、熱収縮糸の配設構造において、甲第18号証における熱収縮糸は帯状布自体を構成する部分に配設されているのに対し、本件発明は付加的に配設された挿入糸として配設されている点で相違する旨述べている(同23頁17行ないし24頁3行)。
しかしながら、本件発明と同一の地組織を有する甲第14号証に「織物に相応する経編地」(1頁右下欄16行)と明記されているように、本件発明の編組織は、経糸挿入糸を必須のものとすることにより織物に相応する経編地を構成しているものであり、本件発明にいう経糸挿入糸(3)として配設されている熱収縮糸と甲第18号証の経糸として配設されている熱収縮糸とは、いずれも経糸として本質的に同一なものである。
そして、後記<2>、<3>のとおり、甲第18号証からは、織物ではあるが、熱収縮糸の配設構造において本件発明と同様の熱収縮糸の配設構造を有する芯地が公知であるから、甲第18号証の熱収縮糸の配設構造を具備した芯地の地組織を織物に相応する甲第14号証の経編地に変換することは、当業者が容易になし得ることである。
(b) 被告は、編物と織物との技術分野の違いを主張するが、進歩性の判断において、本件発明と同じインサイドベルト等の芯地である甲第18号証の熱変形原理を甲第14号証の織物に相応する経編地に応用し得るか否かを判断する際には、同じ帯状布の芯地として、織物、編物の分類を超えて判断されなければならないことは当然である。
被告は、本件発明の縦方向の挿入糸(3)は、緯糸と交錯したり、からむことがない旨主張するが、本件発明における糸(3)の配設位置は、ウエールにおいてステッチ糸(4)の編目に直接編み込むタイプと、ウエール間において糸(1)層と糸(2)層の間に挿入し間接的に編み込むタイプの双方を含むものであるところ、前者では、乙第3号証のようにステッチ糸(4)自体を熱収縮糸とした場合や甲第18号証の織物からなる帯状布の一側部に収縮率大なる経糸を配設した場合と収縮糸が他の糸と絡んでいることにおいて大差はなく、条件もほとんど同じであって、作用効果にも大きな開きはないものである。
さらに、被告は、甲第14号証中の「織物に相応する経編地」は織物と経編地が相応する意味ではない旨主張するが、甲第14号証の地組織自体は、編目形成糸と振り糸とからなる本来の編組織に織物のような経糸と緯糸を挿入して構成されているところから、織物に近い組織を有しているものであり、この点の被告の主張は理由がない。
<2> 審決は、甲第18号証における熱収縮糸はスフレーヨン等と記載され、フイラメント糸を用いることについては何ら記載されていないことを指摘する(審決書23頁12行ないし16行)。
しかしながら、熱収縮性合成繊維は、甲第23号証ないし甲第29号証に記載されているとおり熱収縮が求められる分野において極めて一般的に広く用いられているのであるから、甲第18号証の熱収縮糸としてスフレーヨンに代えて合繊熱収縮糸を採用し、アイロン等の加熱手段を用いて加熱変形される方法を採用することに何ら困難性はない。
<3> 審決は、収縮率についても、甲第18号証の記載内容に関し、「一方の耳部(第一耳部)、他方の耳部(第二耳部)、中間部の順に小さくなっているものであり、本件発明の「縦方向に配列挿入されたフイラメント糸」のように「巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2ないし複数の縦糸配列群に区分されている」ものではない。」(審決書24頁4行ないし10行)と認定しているが、甲第18号証において中間部の糸の熱収縮率を最小とする構成は、芯地の幅方向に彎曲せしめるための付加的な構成要件であって、芯地を長さ方向に扇形円弧状に熱変形せしめるための構成要件ではない。芯地を長さ方向に扇形円弧状に熱変形せしめる技術原理は、甲第18号証に開示されているとおり、少なくとも第一耳部3と第二耳部3’の熱収縮率を異ならしめることによってもたらされるものである。
なお、本件発明は、「巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されていることを特徴とする芯地」とあるように、縦糸配列群を2とする場合を含むものである。
<4> したがって、審決の相違点<5>についての判断は誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 認否
請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定及び判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1)相違点<4>についての判断の誤りについて
<1> 糸づかいは組織と不即不離のものであり、各組織に応じてその目的、作用効果に合わせて使い分けられるものであるから、組織と全く切り離して糸づかいを論じることはできないというべきところ、甲第16号証は経糸と緯糸を構成要素とする細幅織物であり、その経糸であるかさ高加工糸、スパンデックス等の弾性繊維は、ストレッチ織物で縫製されるズボン、スカート等の伸縮性に対応させる目的で緯糸に結合させて使用されているのに対し、本件発明は、往復編成される弾撥性の強いモノフイラメント糸と、その一面において横振りされた合繊フィラメント糸に対し、縦方向に挿入される挿入糸を配列して保形性を高め、腰を高めた編組織であって、芯地として共通性はあるにしても、組織構成はもちろん、利用目的及び作用効果とも全く相違しているのであるから、甲第16号証についての審決の認定判断に誤りはない。
<2> 甲第17号証には、縦糸又は横糸について、フィラメント糸かモノフイラメント糸ということは全く記載されていないし、特に本件発明の振り糸に相当するくさり糸についてもその材質は明示されていない。
原告は、甲第17号証の第1図及び第2図に、横糸、縦糸がいずれも比較的太いフィラメント状の糸状体として描かれ、特に横糸の往復編成によって形成される左右両端耳部が円弧状に曲折して描かれていることを根拠として、横糸をモノフイラメント糸、縦糸をフィラメント糸と読み取っているが、第1図及び第2図に描かれている横糸の図は、横糸の糸種とは関係なく、一般的にその外観を示す場合の描き方であって、モノフイラメント糸やフィラメント糸に限るものではない。
原告は、甲第30ないし第34号証に示すとおり、芯地として緯糸に合繊モノフイラメントを、経糸及び鎖糸として合繊フィラメントを用いる糸づかいは、周知である旨主張するが、甲第30号証ないし34号証は、単に緯糸に合繊モノフイラメント糸を用いる例があることを示しているだけであり、化学繊維モノフイラメント糸を編巾一杯に往復編成した編組織である点は、全く示されていない。加えて、芯地は、その目的、用途に応じて種々の糸が利用されているものであるから、甲第17号証の糸づかいを原告の主張するごとくに読み取ることはできない。
(2) 相違点<5>についての判断の誤りについて
<1>(a) 本件発明の芯地は経編地であり、甲第18号証の帯状布は織物であるが、周知のように経編地と織物地では、それぞれ糸を組合わせる仕組み(製造方法)が相違し、両者の組織(糸の配設構造)及び特性の違いは歴然としており、技術分野を異にしている。織物地においては、緯糸と経糸が直角に組合わされ、上下に交互に通って結合されるのであり、経糸がなければ織物地とはなり得ないので、経糸は織物構成上必須のものである。したがって、甲第18号証の帯状布に配される経糸は、織物構成上、欠くことのできない必須のものであり、該経糸によって構成された耳部が「帯状布自体を構成する部分」である。
これに対し、本件発明の糸(3)は、付加的な効果を得る目的で、経編地に挿入され、また、その挿入形態は単に編地の一面に挿入されているのみである。なお、本件発明の糸(3)が甲第18号証の経糸に対応するステッチ糸(4)によって直接的に編止められている場合でも、本件発明の糸(3)は、甲第18号証の経糸のように緯糸と交互に交差することなく、経編地の一面に単に挿入されているのであって、付加的な効果を得る目的を有する糸であることに変わりはない。よって、甲第18号証と本件発明における経糸挿入糸(3)は、明らかに別異のものである。
経方向に配糸するステッチ糸(4)は、熱収縮差をつける糸として作用せしめることが充分に可能である。このことは、原告が頒布した製品(ニューカーブラブ)の説明書(乙第3号証)中において、その特徴の一つとして、「編み組織の上、鎖編み糸に収縮率の異なる糸を使用している為、簡単にクセ処理(カーブライン)が出来ます。」と記載され、ステッチ糸(4)に相当する糸に熱収縮差をつけることによって、布地に扇形湾曲性をもたらし得ることが記載されていることから明らかである。そして、原告が提出する従来の経編地の公知例では、甲第14号証を除き、経方向の挿入糸たる糸(3)に相当する糸は用いられていない。このことは、通常の経編地においては、経方向の挿入糸たる糸(3)に相当する糸を用いることが、必須の要件としては認識されていなかったことを示している。そして、このような編組織の場合において、編地に熱収縮差を与えようとすれば、経方向に配糸するステッチ糸(4)に熱収縮差をつけるのが、むしろ当然である。なお、甲第14号証の経編地では、軽方向の挿入糸たる糸(3)に対応する糸が用いられているが、これは「力糸は編地に縦方向および横方向に高い安定性を与えている。」(甲第14号証1頁右下欄10行ないし12行)と記載されているように、単に布地に安定性を与えるために使用されているにすぎない。
そして、フィラメント糸(3)を用いる本件発明は、ステッチ糸(4)に熱収縮差を与えるものに比し、扇形弧状の形状を得る効果においてはるかに優れている。すなわち、本件発明におけるフィラメント糸(3)が熱収縮すれば、糸(3)の収縮に直接対応して芯地の寸法が短くなり、湾曲形状をとることになる。これに対して、ステッチ糸(4)の形状は、編目(ループ)が鎖状に連結されていて、しかも、その連結部には各々若干の開き(すき間)があるため、このような形状をとったステッチ糸(4)が熱収縮すると、まず、編目の連結部のすき間が埋められ、次に、丸い鎖状の編目が各々編目の横幅を狭くすることによって、その形状が細長い形状となり、それによって収縮が吸収され、糸が収縮しても、その収縮に応じてそれだけ直接芯地の寸法は短くならない。したがって、本件発明においては、「これをカラー、帯、腰裏等の芯地として使用するに当っては、従来の芯地と同様、表布と共に重ね、熱ローラープレス或いはアイロン加熱等により熱接着される。・・・配列される縦糸フィラメントが数種の熱収縮率異なる場合には扇形弧状の彎曲を呈する。」(甲第20号証の1第7欄41行ないし8欄5行)と記載されているように、ズボンの表布とともに熱接着される過程において、極めて容易に扇形弧状に湾曲させる効果が達成できるのであるが、ステッチ糸(4)に熱収縮差を与えた場合に、これと同一の作用効果を得ることは、到底不可能である。しかも、編地は特有の性質として、伸縮性があり、形態安定性、寸法安定性を失いやすい特徴を有していることは周知であり、フィラメント糸(3)のように復元性、保形性等の効果を奏する糸がなければ、熱収縮によって得られた扇形弧状の形状は保持し得ない。以上のように、フィラメント糸(4)に熱収縮差を与えても、本件発明の有する「体形に即した良好なフィット性を有せしめ」(甲第20号証の1第4欄31行ないし33行)、更に、「自然形態に合致する形くずれのない」(同9欄7行、8行)等の効果を奏することは、著しく困難である。
(b) 甲第14号証の「織物に相応する経編地」(1頁右下欄16行)との記載は、織物と経編地とが相応する趣旨ではなく、両者は全く別異のものであるが、立毛、畝等の付加的な糸組織を有するという点において相応することを述べているにすぎない。
<2> 甲第18号証における熱処理は、蒸気温によるものである。
これに対し、本件発明は糸(3)が熱収縮を異にするフィラメント糸で構成されているので、その繊維物性から、水又は蒸気では収縮せず、ローラプレスあるいはアイロン加熱等によって収縮し、扇形弧状の湾曲形状を得る。
したがって、両者は、利用される糸の違いから、収縮の発現において前記のごとき違いを有し、作用効果においても明らかに相違するものであり、甲第23号証ないし甲第29号証に示されているような熱収縮性フィラメント糸が公知であることをもって、合繊フィラメント糸が甲第18号証の「スフレーヨン等」(1頁右欄9行)に含まれると解することはできない。
<3> 本件発明の糸(3)は、甲第18号証のように耳部だけに配されるのではなく、最適な湾曲形状が得られるように、例えばその上縁側から順次、大なる熱収縮率を有する縦糸群からなる大熱収縮縦糸部分、中間の熱収縮率を有する縦糸群からなる中間熱収縮縦糸部分、小なる熱収縮率を有する縦糸群からなる小熱収縮縦糸部分というように区分されているのであり、湾曲効果が遙かに優れている。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立は、甲第37号証、甲第38号証の1及び甲第39号証を除き、いずれも当事者間に争いがない(甲第38号証の2については原本の存在も)。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件発明の要旨)及び同3(審決の理由)については、当事者間に争いがない。
そして、審決書8頁7行、8行((1)の理由についての判断)及び同8頁9行ないし11頁17行((2)の理由についての判断)は、当事者間に争いがなく、(3)の理由についての判断のうち、11頁19行ないし14頁1行(請求人の主張)、14頁2行ないし16頁14行(甲第14号証との一致点、相違点の認定)及び16頁15行ないし19頁8行(相違点<1>ないし<3>についての判断)は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 相違点<5>についての判断の誤りについて
<1> 相違点<5>についての判断に関し、「甲第15号証ないし甲第17号証には、編組織の縦方向に配列挿入される糸が熱収縮を異にするフイラメント糸であり、巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にするようにされている点については何ら記載されておらず、また、それを示唆する記載もない」(審決書21頁8行ないし13行)ことは、当事者間に争いがない。
<2> 甲第18号証に、「「収縮率がそれぞれ相異する織糸を用いて織成せしめた織布両耳部分の一方耳部の収縮率が他方耳部の収縮率より寡少とし、かつ前記両耳の残余中間部に前記耳部に比し収縮率が小なる織糸をもって織成してなる湾曲帯状布」が記載ざれ、「織布両側縁にスフレーヨン等順次収縮率大なる織糸を用いて第一耳部3ならびに第二耳部3’を形成し、かつ前記第一耳部3の収縮率を第二耳部3’の収縮率に比しやや大ならしめるとともに、前記両耳部3、3’中間部4の織糸を前記両耳形成織糸に比しその収縮率が寡少なる経糸をもって配して織成せしめる。」(1頁右欄9行ないし15行)、「かく製織せしめたる帯状布にプレス等の熱処理を施すことによって、該布状体が互いに異なる耳状部分3、3’の収縮率の織布織性上矢印C方向の扇状形体に湾曲形成し、かつ同時に該織布の長さ方向に直角な各横断面形状が円弧状のD方向にも反曲し、よって平面立体的湾曲弓状に変形せる帯状布が容易に得ることができるのである。」(1頁右欄19行ないし25行)、「本発明帯状布をズボン、スカート等の腰裏芯地布7として該衣服の上縁部にこれを添合縫着することによって、腰部の膨らみ部分に最適な下方への拡がりが容易に得ることができ内側から良く添合し、一律性に富み保型力に秀れる等大なる利点を有する賦形芯地を得ることができる」(2頁左欄23行ないし29行)」と記載されていること、「甲第18号証に記載された「湾曲帯状布」は、「芯地」として用いられるものであり、収縮率の相異する糸を縦方向に配し、後の熱処理による収縮の発現によって湾曲形状となすものである」こと(審決書21頁16行ないし23頁8行)は、当事者間に争いがない。
<3> 乙第2号証(「ニット用染色加工機械」)によれば、「元来、織り物と編み物とは、それぞれ糸を組み合わせる仕組みの相違によって造られた、糸の組み合わせ構造の違った繊維製品であって、当然製品としての特性や外観はかなり違っている。」(1頁12行ないし14行)、「つぎに織り物と編み物との相違を挙げるならば、周知のとおり、織り物はたて糸の間に交叉したよこ糸をしっかり打ちこんで、地のしまった堅ろうな構造に造られているのに対し、編み物の方は、構成糸同志をたがいにゆるやかにからませながら編み立てられたもので、その製品は、たて糸またはよこ糸の方向にきわめて伸びやすく、しかもその伸びが十二分に回復することが望まれている。このような伸縮性とこれに伴う柔軟な感触は編み物特有の性質で、織り物と大変違う」(1頁21行ないし26行)ことが認められる。
本件明細書の「(4)は前記マルチフイラメント糸(2)による横振り層を合繊モノフイラメント糸層の一面に編み止めする通常、鎖編みの如き経編目からなるステッチで前記モノフイラメント糸(1)及びマルチフイラメント糸(2)を横振りする時、一緒に別の編糸を編み込み編成する。この編目(4)は通常のトリコット編目等を以て代替せしめてもよい。」(甲第20号証の2第25頁左欄2行ないし7行)との記載及び第1図(甲第20号証の1)によれば、本件発明は、糸(2)及び糸(4)とで編目を形成して経編地とするものであることが認められる。
そして、本件明細書の「更に基層を構成する合繊モノフイラメント糸は弾撥性があり、被着製品の適度の柔軟性並びに保形性を付与せしめ・・・かつ基層は両端がU字状屈曲で丸味をもって連結しているため、従来のヒートカットしたものの様に鋭利で、布目を通して膚を刺すという心配もなく、その上、両端が経編目を編成する編糸と共に一緒に編み込み、止められて目ずれ防止の効果も併せ有している。」(甲第20号証の2第26頁左欄15行ないし23行)との記載によれば、前記糸(2)及び糸(4)で形成される経編地に弾撥性の強いモノフイラメント糸(1)を所要の編巾一杯にわたり両端部に耳部を形成しながら緯方向に往復編成して挿入させることにより、前記経編地に経方向への弾撥性、保形性を付与し、この構成によって編物としての形態を保持でき、また、この構成で芯地として利用できるものであることが認められる。
さらに、本件明細書の「(3)は前記合繊モノフイラメント糸(1)による糸層と、任意の合繊モノフイラメント糸(2)による糸層とからなる構造物の一面又は両面に配列挿入され編成時一緒に編み込まれているフイラメント糸であり、縦方向に対し強力を与えることは勿論、芯地の厚みを増し、腰を高めるために挿入される。」(甲第20号証の2第24頁右欄39行ないし44行)との記載によれば、本件発明は、前記糸(2)、糸(4)及び糸(1)に加え、更に芯地として縦方向に対する強力を付与し、厚みを増し腰を高めるために付加的に縦にフィラメント糸(3)を挿入するものであることが認められる。
また、本件特許請求の範囲第1項の「前記モノフイラメント糸(1)層に対し前記糸(2)層と同一面又は他面の少なくとも一面において縦方向に挿入してなる適宜数のフイラメント糸(3)」との記載によれば、その配列挿入の仕方は、緯方向に挿入されたモノフイラメント糸(1)と交錯することなく挿入されるものであることが認められる。
他方、前記乙第2号証の記載によれば、織物である甲第18号証の芯地は、経糸と緯糸が直角に組合わされ上下に交互に通って結合され形成されるものであり、経糸が織物組織としてその構成上必要不可欠なものであることが認められる。
以上によれば、本件発明の経方向に挿入されるフイラメント糸(3)は、編物組織に縦方向に対する強力を付与し芯地の厚みを増し腰を高めるため付加的に挿入されたものであるのに対し、甲第18号証の経糸は、織物を組織するため必要不可欠なものとして緯糸と交錯して挿入されるものであり、両者は、その挿入目的及び挿入形態を異にするものであると認められる。
<4> そうすると、甲第14号証中の糸で甲第18号証の経糸に最も近いと認められる糸は、本件発明における糸(4)に相当する糸であるから、甲第14号証に記載の経編地に、甲第18号証に記載の「収縮率がそれぞれ相異する織糸を用いて織成せしめた織布両耳部分の一方耳部の収縮率が他方耳部の収縮率より寡少とし、かつ前記両耳の残余中間部に前記耳部に比し収縮率が小なる織糸をもって織成」するとの技術思想を適用したとしても、この甲第14号証中の本件発明における糸(4)に相当する糸を熱収縮糸とすることになり、しかも、甲第18号証や周知技術等に地組織を構成する糸ではない付加的な糸を熱収縮糸とすることを示唆するものは見いだせないから、本件発明は、少なくとも熱収縮糸を付加的に挿入された糸(3)とした点において、甲第14号証ないし甲第18号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
<5>(a) 原告は、甲第14号証の編組織は「織物に相応する経編地」であるから、甲第18号証の熱収縮糸の配置構造を具備した芯地の地組織を織物に相応する甲第14号証の経編地に変換することは当業者が容易になし得ることである旨主張する。しかしながら、甲第14号証によれば、同号証には「本発明の課題は、付加的な糸組織を備えていてかつ外観が織物技術分野において公知である、いわゆる補強織物、つまり立毛、畝等の付加的な糸組織を有する織物に相応する経編地を製作することである」(1頁右下欄13行ないし17行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、「織物に相応する経編地」とは、立毛、畝等の付加的な糸組織を有し、外観が織物に似た経編地を意味するにとどまり、地組織として甲第14号証の経編地が織物に類似することまで意味していると認めることはできないから、この点の原告の主張は採用できない。
(b) さらに、原告は、本件発明における糸(3)の配設位置は、ウエールにおいてステッチ糸(4)の編目に直接編み込むタイプと、ウエール間において糸(1)層と糸(2)層の間に挿入し間接的に編み込むタイプの双方を含むものであるところ、前者では、乙第3号証のようにステッチ糸(4)自体を熱収縮糸とした場合や甲第18号証の織物からなる帯状布の一側部に収縮率大なる経糸を配設した場合と収縮糸が他の糸と絡んでいることにおいて大差はなく条件もほとんど同じであって、作用効果にも大きな開きはない旨主張する。
しかしながら、本件発明の糸(3)は、ステッチ糸(4)によって直接的に編止められている場合でも、甲第18号証における経糸のようた緯糸と交互に交錯することはなく経編地の一面に挿入されており、その配設位置は、やはり織物の経糸の配設位置とは異なるものであると認められる。そして、本件発明においては、フィラメント糸(3)が熱収縮すれば、糸(3)の収縮に直接対応して芯地の寸法が短くなって湾曲形状をとることになり(編止めにより、糸(3)の収縮が妨げられるとの事情はうかがわれない。)、容易に扇形弧状に湾曲させる効果が達成できると認められるのに対し、ステッチ糸(4)に熱収縮差を与えるものにおいては、編目によって収縮が吸収され、糸が収縮してもその収縮に応じて直接芯地の寸法は短くならないため、本件発明のものに比し、「体形即応性」(甲第20号証の2第8頁14行)の点において劣ると認められ、しかも、前記のとおり、「編み物の方は、構成糸同志をたがいにゆるやかにからませながら編み立てられたもので、その製品は、たて糸またはよこ糸の方向にきわめて伸びやす」いものであるから、形態安定性、寸法安定性を失いやすい特徴を有していると認められるところ、本件発明は、フィラメント糸(3)のように保形性等の効果を奏する糸によって「形くずれのない」(同8頁15行)等の効果を奏しているものと認められる。したがって、この点の原告の主張は採用できない。
<6> そうすると、仮に、熱収縮を求められている分野においで熱収縮合繊繊維を用いることが周知の技術であり、甲第18号証のスフレーヨンに変えて熱収縮糸として合繊熱収縮糸を採用し、それらの加熱変形にアイロン等の加熱手段を用いることは当業者にとって困難なことではなく、帯状布の長手方向だけの湾曲のために「巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分」する構成を採用することは当業者が容易に想到できるものであるとしても、本件発明が甲第14号証ないし甲第18号証に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(2) 結論
以上によれば、原告の請求は、取消事由1について検討するまでもなく、理由がない。
3 よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
昭和59年審判第6988号
審決
大阪府大阪市中央区船越町1丁目4番7号
請求人 島田商事株式会社
大阪府大阪市中央区博労町4丁目6番10号 ハニービル 三協国際特許事務所
代理人弁理士 小谷悦司
大阪府大阪市中央区博労町4丁目6番10号 ハニービル 三協国際特許事務所
代理人弁理士 長田正
広島県芦品郡新市町大字戸手2382番地の6
被請求人 株式会社ミツボシコーポレーション
東京都渋谷区渋谷2-10-10 仁丹ビル6階
代理人弁理士 品川澄雄
兵庫県神戸市中央区海岸通8番地 神港ビル7階
代理人弁護士 滝澤功治
大阪府大阪市中央区南船場3丁目9番10号 徳島ビル
代理人弁理士 宮本泰一
上記当事者間の特許第1099905号発明「芯地」の特許無効審判事件についてなされた平成3年4月25日付け審決に対し、東京高等裁判所において、審決取消の判決[平成3年(行ケ)第159号、平成5年11月30日判決言渡]があったので、さらに審理したうえ、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
Ⅰ. 本件特許第1099905号は、昭和51年12月28日に出願され、昭和55年10月13日に特公昭55-39642号として出願公告がなされた後、昭和57年6月18日に設定の登録がなされ、本件特許無効審判請求後に本件特許発明に関する訂正の審判が請求され(平成6年審判第12326号)、その審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正を認容する審決がなされ、該審決は確定しているものである。
そして、上記特許の第1発明は、特許請求の範囲第1項およびこの実施態様である第2及び第3項(訂正前の明細書では第2ないし第4項)に記載されたものであり、その第1項に記載された発明は次のとおりのものと認める。
「所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成してなる弾撥性の強い可撓性合繊モノフイラメント糸(1)と、該糸層の一面においてウエール方向に配置され、各ウエールより1ウエール飛び以上離れたウエールとの間においてジグザグ状に横に振り、各ウエール間に振り糸の重合により重複部分(2)’を形成してなる任意の合繊フイラメント糸(2)と、前記モノフイラメント糸(1)層に対し前記糸(2)層と同一面又は他面の少なくとも一面において縦方向に挿入してなる適宜数のフイラメント糸(3)と、前記各糸(1)、(2)、(3)を各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなるステッチ糸(4)とからなり、前記縦方向に配列挿入されたフイラメント糸(3)は熱収縮を異にするフイラメント糸により構成され、巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されていることを特徴とする芯地。」
Ⅱ. これに対して、請求人は、昭和59年4月5日付けで無効審判を請求し、本件特許はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、
(1) 本件発明の明細書(以下、「本件明細書」という)には、当業者が容易に実施できる程度に発明の構成が記載されていないか、又は、特許請求の範囲に、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないので、本件明細書は特許法第36条第3項又は第4項(昭和60年法律第41号によるもの)に規定する要件を満たしていないので、同法第123条第1項第3号により無効とすべきである旨、主張し、
また、
(2) 本件特許の特許請求の範囲第1項に記載され、第2及び第3項に実施態様が示されている発明(その要旨は、前記の特許請求の範囲第1項に記載されたとおりのものであり、以下、「本件発明」という。)は、本件発明の先願の考案と同一であり、かつ先願の明細書及び図面に記載された考案と同一であって、特許法第39条第3項または同法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明に該当するので、本件特許は同法第123条第1項第1号により無効とすべきである旨、主張して、該(1)、(2)の事実を立証するために、甲第1号証ないし甲第13号証を証拠として提示し、
さらに、上記の訂正審判の確定後の平成7年3月14日に意見書を提出し、
(3) 訂正が認容された後の本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に該当するので、依然として同法第123条第1項第1号により無効とすべきものである旨、主張し、さらに甲第13号証ないし甲第18号証を証拠として提示した。
Ⅲ. 上記平成7年3月14日付けの意見書に添付された甲第13号証は平成1年3月1日付けの審判請求理由及び証拠補充書に添付された甲第13号証に相当するものではないので両者を区別するために、以下、便宜上、前者を「後の甲第13号証」、後者を「前の甲第13号証」という。
請求人の提出した証拠は次の通りのものである。
甲第1号証 財団法人 日本規格協会発行「JIS用語辞典 Ⅵ繊維編」第384頁
甲第2号証 昭和59年(ワ)第3876号差止請求権不存在確認等請求事件(大阪地方裁判所)被告第8準備書面
甲第3号証 実願昭51-77915号(実開昭52-168602号)のマイクロフィルム
甲第4号証 (株)繊維技術ジャーナル社、昭和49年9月15日発行 ラッシェル・トリコット経編技術問題集第35頁
甲第5号証 実願昭52-22800号(実開昭53-117302号)のマイクロフィルム
甲第6号証 実公昭59-34802号公報
甲第7号証 実公昭60-26086号公報
甲第8号証 甲第7号証の考案に対する実用新案登録異議申立書(申立人・三星産業株式会社)
甲第9号証 甲第7号証の考案に対する実用新案登録異議申立書(申立人・日本マイヤー株式会社)
甲第10号証 甲第7号証の考案に対する登録異議決定謄本
甲第11号証 甲第7号証の考案に対する拒絶査定謄本
甲第12号証 訴状[(訂正前の)本件特許発明に基づき、甲第7号証の考案の実施品に対する差止請求訴訟]
前の甲第13号証 請求人の福井県技術アドバイザー稲葉薫治に対する質問書に対する同人の回答書
後の甲第13号証 平成3年(行ケ)第185号判決
甲第14号証 特開昭47-25477号公報
甲第15号証 昭和2年実用新案出願公告第8712号公報
甲第16号証 実願昭46-15265号(実開昭47-15772号)のマイクロフィルム
甲第17号証 実願昭49-101162号(実開昭51-31901号)のマイクロフィルム
Ⅳ. そこで、請求人の主張について検討する。
(1) の理由については、表記判決の判示のとおりである。
(2) の理由について、
本件発明の出願に対して先願にあたる甲第3号証である実願昭51-77915号の明細書(以下、「先願明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲には、「編目形成糸及び挿入糸により形成された基布に対し、非伸縮性モノフイラメント糸が編幅の両耳部に於ける少なくとも1ウエールずつ分離した他のウエールに対し緯方向に往復挿入されてなり、ポリウレタン等の伸縮性糸が上下を緯方向の挿入糸により押えられて、ウエール間又はウエールに挿通されてなり、耳部のウエールが非伸縮性モノフイラメント糸の耳端の突出部を被覆するように耳部を形成していることを特徴とする衣料用芯地」(以下、「先願考案」という。)と記載され、先願考案に係る実施例の編成組織図である第4図、第5図、第6図には、挿入糸4’が相隣接するウエール間をジグザグ状に横に振られた編み組織が図示されており、考案の詳細な説明によれば、挿入糸4’は、相隣接するウエール間をジグザグ状に横に振られているいわゆるデンビー編と称するものであることが認められる。
他方、本件発明において、上記先願考案の挿入糸4’に相当する合成フイラメント糸は、「各ウエールより1ウエール飛び以上離れたウエールとの間においてジグザグ状に横に振り、各ウエール間に振り糸の重合により重複部分2’を形成」するといういわゆるプレーンコード編と称するものである。
そして、表記の判決は、上記のデンビー編及びプレーンコード編はいずれも先願考案の出願当時周知のものであったこと、先願考案において挿入糸の編組織として、デンビー編みと同様にプレーンコード編みが適用できることは当業者において容易に理解し得ることと認められること、先願考案において、挿入糸の編組織としてプレーンコード編を選択することを積極的に排除する特段の事由が認められないこと等の理由で、先願明細書に、上記の「各ウエールより1ウエール飛び以上離れたウエールとの間において……重複部分2’を形性」するという構成要件が記載されていないことを前提として、本件発明は、芯地の編み組織自体が先願考案と相違し、同一とはいえないとした、平成3年4月25日付けの審決の判断を誤りとしたのであり、「本訴において問題とすべきことも審決の上記判断の当否に尽きるものである」と示されているように、その他の、本件発明と先願考案との相違点については判断をしていない。
そこで、さらに、先願明細書に記載された事項と本件発明とを対比検討する。
先願明細書には、本件発明の「縦方向に配列挿入されたフイラメント糸(3)」に対応するものとして、経糸1として「ポリウレタン等の伸縮糸とナイロン等加工糸が併用して用いられる」ことが記載されているが、「熱収縮を異にするフイラメント糸により構成され、巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されている」という構成については記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明は、芯地の編組織自体として先願明細書に記載のものと共通するところがあるものの上記の点で先願明細書に記載されたものと相違し、同一ということはできない。
また、甲第1、2号証および甲第4号証乃至前の甲第13号証も、縦方向に配列挿入されたフイラメント糸の構成に係る事項を示すものではなく、上記の判断に影響するものではない。
(3)の理由について
請求人の提出した、後の甲第13号証は、本件の訂正前の発明に対してなされた、他の無効審判である昭和63年審判第13674号事件に関する平成3年5月16日付審決の審決取消訴訟である平成3年(行ケ)第185号の判決であり、甲第14号証(上記判決では甲第3号証)に記載された「生地」の編組織を、生地とは求められる作用効果が全く異なる芯地に適用することは当業者にとって容易なこととはいえないとした上記審決の判断を誤りとして上記審決を取消した判決である。
請求人は、(3)の理由の具体的な主張として、上記判決で、「審決は、使用される糸の素材の特定や緯糸が所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成することの容易想到性については、これを取り上げて判断していないのであるから、本件訴訟においてもこれらの点を議論の対象とすることは相当でなく」として、触れられなかった点についても、「緯糸としてモノフイラメント糸を使用し、編巾一杯に耳部を形成しながら往復編成すること、及び、その余の糸としてマルチフイラメント糸を使用することは、いずれも甲第15号証ないし甲第17号証によって本件出願前周知ないし公知な技術であるから、当業者が甲第14号証ないし甲第17号証から容易に想到し得るものであり、さらに、前記訂正審判により、「縦方向に配列挿入されたフイラメント糸(3)は熱収縮を異にするフイラメント糸により構成され、巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されている」と訂正することが認容された本件発明の構成は、甲第18号証に開示されているから、後の甲第13号証の確定判決で甲第14号証(判決では甲第3号証)から容易に想到し得ると判示された本件訂正前の特許請求の範囲第1項記載の編組織に、前記甲第18号証に記載の構成を単に適用することは当業者ならきわめて容易になし得るものであり、訂正が認容された後の本件発明は、特許法第29条第2項のの規定により特許を受けることができない発明に該当し、同法第123条第1項第1号により無効とすべきものである旨、主張している。
そこで、本件発明の芯地と甲第14号証に記載された経編地とを対比する。
甲第14号証には、複数のウエールにわたって延びる緯糸と、ウエールの間に配置された力糸とを有するベース編地からなる経編地において、付加的な編目を形成する部分緯糸が所定の長さでベース編地に浮かされて配置されている編組織が記載され、「ベース編地には種々異なる形式のものが公知である。例えばウエールを成す編目を形成する糸はトリコット編、メリヤス編等の公知の編成法で編むことができる」(第1頁右欄第5~第8行)と説明されている。
ここで、甲第14号証に記載された経編地における「緯糸」、「力糸」および「部分緯糸」はそれぞれ本件発明において(1)、(2)および(3)で表される糸に相当し、「ウエールを成す編目を形成する糸はトリコット編、メリヤス編等の公知の編成法で編むことができる」とされる甲第14号証のベース編地の糸についてみると、複数のウエールにわたって延びる緯糸に対して縦方向に鎖編で編止めする編成法は、甲第15号証にもみられるように、本件出願前公知であって、甲第14号証記載のベース編地のウエールを成す編目を形成する糸には本件発明のステッチ糸(4)のように緯糸を縦方向に鎖編で編止めするものも含まれると解されるので、ベースとなる編地の組織の点では両者に相違はないが、
<1> 本件発明は芯地であるのに対して、甲第14号証記載のものは生地である点。
<2> 本件発明においては、緯糸が所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成しているのに対し、甲第14号証に記載されたものはその点が不明である点。
<3> 本件発明においては、ジグザグ状に横に振るフイラメント糸は編地上に浮いていないが、甲第14号証に記載されたものにおいて該糸に相当する部分緯糸はジグザグの各折返し点以外では他の糸から成る編組織と結合されず、ベース編地上に浮かされている点。
<4> 本件発明のものは、往復編成した全巾緯糸(1)が弾撥性の強い可撓性合繊モノフイラメント糸、ジグザグ状の振り糸(2)が任意の合繊フイラメント糸であることにそれぞれ特定されているのに対して、甲第14号証に記載されたものでは、各糸の材質が特定されていない点。
<5> 本件発明においては、縦方向に挿入されたフイラメント糸(3)は熱収縮を異にするフイラメント糸により構成され、巾方向ば一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されているのに対して、甲第14号証には、縦方向の挿入糸について糸の材質、物性および配列については記載されていない点。
で両者は相違する。
そこで、上記の相違点について検討する。
相違点<1><3>については、上記の後の甲第13号証である判決の判示のとおりであるが、請求人も述べているように、上記の判決においては、「ここで問題にしているところは本件編組織と同じ編組織である甲第3号証の編組織を芯地に適用することが容易に想到することができるか否かということであって、審決の理由の要点によっても明らかなとおり、審決は、使用される糸の素材の特定(相違点<4>)や緯糸が所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成すること(相違点<2>)の容易想到性については、これを取り上げて判断していないのであるから、本件訴訟においてもこれらの点を論議の対象とすることは相当でなく」として、他の相違点<2><4>については判断の対象としていない。もちろん、縦方向に配列挿入された糸の熱収縮特性等(相違点<5>)についても触れていない。
そこで、さらに検討する。
まず、相違点<2>については、
甲第15号証には、左右両辺に緯糸の折返しによる編耳を構成し、緯糸に対して経て方向に鎖編で編止めした経編莫大小が記載され、「本考案は……生地全体を手厚くし組織を著しく堅牢ならしむると共に縦横何れの方向にも伸縮を生せさらしめ且つ編耳(b)により縁辺の整形を正うして巻上がり等の憂いなからしめらるる」とその効果を記載している。
甲第17号証には、「化学系からなる縦糸と適当巾をもって連続して左右に耳部をつくりながら往復編成する化学糸から成る横糸と縦方向に左右にかけて互いに絡み合って編成するくさり糸とから成る芯地」が記載され、「出来上がった布組織はそれぞれ四方にがんじがらめに絡み合っており、どの糸を引いても抜け出るおそれは全くなくなり、また左右側縁には耳部が連続して形成されているから、目ずれや糸の切れやほつれがなくなるから、芯地の型くずれがおこらなくなり、……強靭で耐久性のきわめて大きい芯地となる」(第2頁下から第4行~第3頁第4行)と記載されている。
すなわち、緯糸が所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成してなる編組織は、本件の出願前周知であり、そのような編組織の芯地が甲第17号証により本件の出願前公知であり、耳部を形成することの効果も、甲第17号証の「左右側縁には耳部が連続して形成されているから、目ずれや糸の切れやほつれがなくなるから、芯地の型くずれが起こらなくなり」の記載および甲第15号証の「編耳(b)により縁辺の整形を正うして巻上り等の憂なからしめらるる」の記載から公知のことであるから、甲第14号証に記載された編組織を芯地に適用する際に上記の編成法を採用することは当業者が適宜なし得ることである。
つぎに、相違点<4>については、
甲第17号証には、上記したように化学糸から成る縦糸と、化学糸から成る横糸とくさり糸で組織した編地から成る芯地が、記載されているが、編地を構成する糸について「例えば塩化ビニリデンやポリエステルのような材質の化学糸から成る縦糸」および「例えばナイロンのような材質の化学糸から成る横糸」と記載されているのみで、それらがフイラメント糸であるとかモノフイラメント糸あるいはマルチフイラメント糸であるとかということは記載されておらず、くさり糸については材質についても開示されていない。そして、請求人は「(尚、横糸の化学糸はモノフイラメントであり、縦糸及びくさり糸がマルチフイラメントであることは第1図、及び第2図から当業者なら充分読み取りうる)」と主張しているが、第1図および第2図の記載を見ても上記の請求人の主張を認めることはできない。
さらに、甲第15号証には、編地を構成する経糸(1)、組織糸(2)および緯糸(3)の材質については記載されていない。
また、甲第16号証には「化学繊維のモノフイラメント等の非伸縮性糸条体を緯糸とし、且つ、たとえばウーリーナイロン等の伸縮性かさ高加工糸、またはスパンデックス等の弾性繊維を経糸として」なる織物よりなる芯地が記載されており、芯地の横糸としてモノフイラメント糸を用いることは開示されているが、編組織について何ら示唆するところはない。
そして、甲第18号証に記載されている芯地の組織も織物であり、使用する糸の材質等についても「スフレーヨン等」という以上の何ものも開示していない。
結局、甲第15号証ないし甲第18号証に開示された事項からは、化学繊維モノフイラメント糸を編み巾一杯に往復編成した編み組織であって、その余の糸にマルチフイラメント糸を使用することが当業者の常識であるとすることはできない。
さらに、相違点<5>についてみると、
甲第15号証ないし甲第17号証には、編組織の縦方向に配列挿入される糸が熱収縮を異にするフイラメント糸であり、巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にするようにされている点については何ら記載されておらず、また、それを示唆する記載もない。
そこでさらに、甲第18号証について検討をする。
甲第18号証には、「収縮率がそれぞれ相異する織糸を用いて織成せしめた織布両耳部分の一方耳部の収縮率が他方耳部の収縮率より寡少とし、且つ前記両耳の残余中間部に前記耳部に比し収縮率が小なる織糸をもって織成してなる湾曲帯状布」が記載され、「織布両側縁にスフレーヨン等順次収縮率大なる織糸を用いて第一耳部3ならびに第二耳部3’を形成し、かつ前記第一耳部3の収縮率を第二耳部3’の収縮率に比しやや大ならしめるとともに、前記両耳部3、3’中間部4の織糸を前記両耳形成織糸に比しその収縮率が寡少なる経糸をもって配して織成せしめる。」(第1頁右欄第9~第15行)、「かく製織せしめたる帯状布にプレス等の熱処理を施すことによって、該布状体が互いに異なる耳状部分3、3’の収縮率の織布織性上矢印C方向の扇状形体に湾曲形成し、かつ同時に該織布の長さ方向た直角な各横断而形状が円弧状のD方向にも反曲し、よって平面立体的湾曲弓状に変形せる帯状布が容易に得ることができるのである。」(第1頁右欄第19~第25行)、「本発明帯状布をズボン、スカート等の腰裏芯地布7として該衣服の上縁部にこれを添合縫着することによって、腰部の膨らみ部分に最適な下方への拡がりが容易に得ることができ内側から良く添合し、一律性に富み保型力に秀れる等大なる利点を有する賦形芯地を得ることができる(第2頁左欄第23~第29行)等の記載がなされている。
すなわち、甲第18号証に記載された「湾曲帯状布」は、「芯地」として用いるものであり、収縮率の相異する糸を縦方向に配し、後の熱処理による収縮の発現によって湾曲形状となすものである点では、本件発明と共通するものであるが、
ⅰ) 甲第15号証に記載された芯地の組識は、本件発明のような経編地ではなく織物であり、
ⅱ) 縦方向に配される糸の素材について、甲第15号証には、収縮率大なる織糸として、スフレーヨン等が示されているのみであり、フイラメント糸を用いることについては何ら記載されておらず、
ⅲ) 収縮率の相異する糸の配列の状態について、甲第15号証に記載のものにおける両耳部およびその中間部はいずれも帯状布自体を構成する部分であって、そこに配される経糸は本件発明におけるように「縦方向に配列挿入された」糸に相当するものということはできないものであり、その収縮率についても、一方の耳部(第一耳部)、他方の耳部(第二耳部)、中間部の順に小さくなっているものであり、本件発明の「縦方向に配列挿入されたフイラメント糸」のように「巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2ないし複数の縦糸配列群に区分されている」ものではない。
という点で、甲第18号証には、前記相違点<5>で挙げた、経編地の縦方向に配列挿入された糸に係る本件発明の構成要件と同一の技術思想を記載しているとも示唆しているものともいえない。
したがって、甲第18号証に開示された技術的事項によっても、甲第14号証に記載された編組織を芯地に適用する際に、その縦方向に配列挿入される糸(力糸)を上記の相違点<5>で挙げた本件発明の構成、すなわち、「熱収縮を異にするフイラメント糸により構成され」、しかも「巾方向一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されている」という構成にすることは当業者が容易になし得たことということはできない。
結局、請求人の提示した甲第14号証ないし甲第18号証のいずれにも本件発明の構成要件である
「往復編成した全巾緯糸(1)が弾撥性の強い可撓性モノフイラメント糸、ジグザグ状の振り糸
(2)が任意の合成フイラメント糸である」点、および「縦方向に配列挿入されたフイラメント糸
(3)は熱収縮を異にするフイラメント糸により構成され、巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列群に区分されている」点については、何ら記載されておらず、それを示唆する記載もない。
そして、本件発明は、上記の構成により、芯地として、適度の柔軟性と長手方向伸縮性ならびに復元性を有し、保形成に優れ、外めくれを防止するほかに、「体形に即したフイット性」があるという上記甲号各証にはない作用効果を奏するものである(後の甲第13号証の判決第14頁第18~第19行参照)。
したがって、本件発明は甲第14号証ないし甲第18号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
Ⅴ. 以上のとおりであるから、請求人が主張する理由および提出した証拠によっては、本件特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
平成7年8月24日
審判長 特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官